高校までは養護学校という居場所が与えられている知的障碍児たちですが、高校を卒業した後はどうしていると思われますか?
現在の知的障碍児たちの進路は、主に
市の募集する障碍者枠での就職
一般企業の障碍者枠での就職
小規模作業所
知的障碍更生施設
知的障碍授産施設
となっています。
知的障碍更生施設というのは、18歳以上の知的障碍者が入所、あるいは通所し、保護を受けるとともに、更生に必要な指導訓練を行います。
知的障碍授産施設というのは、18歳以上の知的障碍者で雇用されることが困難な者が入所、あるいは通所し、自活に必要な訓練を受けるとともに、職業に就き、自活します。
これらの施設は、常に定員が満杯状態で、希望してもすぐに入所するのは難しい状態です。
また、国・自治体は、「障碍者雇用促進法」 (※詳しくはInformationの厚労省HP-「障碍者雇用促進法」「改正障碍者雇用促進法」をご参照ください。) により障碍者を定率2.1%で雇用することが義務付けられていますが、自治体の障碍者枠の職員募集はその大半が身体障碍者向けであり、知的障碍者については毎年あるわけではありません。
またあっても若干名で、しかもその応募条件は大抵、職場まで一人で通えることや他の職員との協調が図れること、また決められた職務を遂行する能力があること、ということが述べられています。
ですから、知的障碍児の中でもごく軽度の者しか応募ができず、応募できたところでそれは全市から及ぶわけですから若干名の採用枠に入るなんて奇跡に近い状況です。
もちろんマイちゃんのように重度の知的障碍者は、応募すら許されません。
では、一般の企業はどうなっているのでしょうか?
先に述べた「障碍者雇用促進法」により、民間企業も従業員数が56人を越える企業には、定率1.8%の身体障碍者・知的障碍者の定率雇用を義務付けています。そして、従業員300人以上の企業には、その定率が遵守できなかった場合、納付金(いわゆる罰金制度)を納めることが決められています。
つまり、例えば301人の従業員の企業なら5人以上の障碍者を雇用しなければなりません。しかし、実際には障碍者を雇わず、定率による不足障碍者数に応じた納付金を納める企業が5割を超えているのが実状です。
また、雇用されていても、ここでもその大半は身体障碍者で知的障碍者に至ってはごく僅かです。
罰金にあたる納付額は、定率による不足障碍者1人につき月額5万円です。つまり年間にして不足1人あたり60万円となります。先の例の301人の企業では、60万円×5人=300万円を年間に納めれば障碍者を雇わなくてもいいということになるのです。300人以上従業員がいる企業にとって、年間300万円という額は、新入社員1人分の給与にしかならず、大した額ではないでしょう。だから「障碍者雇用促進法」があっても、一向に障碍者の就職率が伸びないのです。
もちろん「障碍者雇用促進法」に関係なく、率先して障碍者を雇用している企業もないわけではありません。マクドナルドやユニクロは毎年障碍者を定率以上に採用しています。しかし、そのような企業があまりにも少なすぎるのが現実です。
そこで、市や民間企業にも就職の場を与えられない知的障碍者たちの進路を確保するため、その知的障碍者の親たちが集まって自分たちで立ち上げたのが小規模作業所です。親たちは、なけなしのお金を持ち寄り我が子や同じ知的障碍を持つ子どもたちのためにと、卒業後の居場所を作ったのです。
しかし、この小規模作業所が今潰される危機に瀕しています。2005年10月30日に採択された「障碍者自立支援法」により、NPOを除く小規模作業所については、従来給付されていた助成金が廃止となるため、NPOとして認められない小規模作業所は閉鎖に追い込まれようとしているのです。
知的障碍者たちは、小規模作業所で箸の袋詰めや広告・パンフレットの袋詰め、紙すきによるはがきやコースター作りなど、軽作業の仕事をして収入を得ます。この軽作業を発注してくれる会社も小規模作業所の職員が営業に回り、やっとのことで得ている仕事で、金額的には知的障碍者たちに充分な給与として支給できるほどのものではありません。小規模作業所として借りている場所の家賃や職員の給与を差し引くと知的障碍者の給与は、どこの作業所でも大抵、月額2〜3000円というところです。しかも、それでも赤字経営のところが多く、作業所を維持していくためには、親から数万円の会費を取っているところがほとんどなのです。
労働とは、働いた仕事に対しての給与を受けることを言います。けれど、知的障碍者たちは、お金を払って働かせて貰っているのです。おかしな話です。納得できません。でも、納得できなくても、お金を払ってでも作業所に行かせて貰わないと、知的障碍者たちは学校を卒業した後、行き場所もなく、家で過ごすしかなくなるのです。
それなのに、この「障碍者自立支援法」は、その作業所さえも潰そうとしています。助成金が給付されなくなったら親の負担額は一体いくらになるのでしょうか? 行かせたくてもその負担額を払いきれなくて、作業所に行けない知的障碍者が増えるだけです。
では、小規模作業所をなくした後、行政はどうするのかと言えば、この法律が障碍者の社会参加、就職斡旋を目的としているので、更生施設や授産施設あるいは入所施設といった施設を今後作る予定はないと言います。
前述の市職員の採用や民間企業の採用状況でも分かるように、「障碍者雇用促進法」が制定されていても、現実には知的障碍者に働く場所が与えられていないのに、親たちの苦肉の策である小規模作業所まで取り上げ、挙句に施設は作らないというのでは、『知的障碍者は死ぬまで家の中でじっとしていろ。』と言っているようにしか聞こえません。
「障碍者自立支援法」といっても名ばかりで、知的障碍者にとってその実は逆に自立を奪うような法律なのです。
行政は、今一度、本当に障碍者の立場に立って法律を見直して頂きたいと切に願います。
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